オオハムの換羽観察記 2,009年5月
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水鳥の中でもアビ類は外洋を生活の場としているので日頃観察の機会は無く、東海地方で観察するとすれば渥美半島な
どの太平洋岸か福井県の日本海側に出かけて行くしかない。
この冬は日本海の海に何回か出かけてオオハムの換羽を観察した。
水鳥の冬羽(非繁殖羽)はとても地味であるが、何羽も見ているうちに夏羽への換羽が始まっているものがいた。 夏羽を
見たいと思ううちどうせなら換羽の過程を見たくなり、往復で260kmも有るが全部で7回も往復して観察した。
暖かくなるに連れて個体数が減ってゆき、GW中の4月30日には1週間前に100羽ほどもいたものが17羽まで減っていた。
GW中には大勢のサーファーや釣り人が入ってますます数が減ってゆくと予想されたので4月30日をもって観察終了とした。
図鑑に掲載されている頭から後頚部が灰青色の完全な夏羽は見られなかった。
水鳥の面白さは夏羽と冬羽の大きな違いだと思う。 換羽してゆく過程の観察や、年齢による違いの考察など複雑な故に
引き付けられる人たちは多い。
第1回の遠征は3月16日だった。 この時は勝手がわからなかったので8羽のアビの群とミミカイツブリ・アカエリカイツブリを
遠くから見ただけで成果は得られなかった。
*3月23日
この日は強風が吹き荒れて海が荒れており、うねりが高くてなかなか見付けられなかった。 こんな日は港内に入る可能性
が有るというのであちこちの漁港を回ってみたが、見られたのは海水浴場になっている海岸で波の穏やかな場所だった。
このオオハム冬羽は背中の辺りに僅かに白い点が出て換羽が始まろうとしているがほぼ冬羽である。
写真@
*4月3日
この日は好天で海岸近くにアカエリカイツブリやオオハムがいたが、私たちがカメラを担いで少しづつ寄って行くと嫌って
しだいに遠ざかっていった。 しかし、岸近くでナブラが立って餌に引かれて短い時間だが近くまで寄ってきた。
英名がダイバーと言うように潜水が得意で長距離を潜って来るのだろう・・・いつの間にか数羽のオオハムがナブラの周囲に姿
を見せていた。 全てが撮れれば良かったが短時間のナブラだった。
左の個体は上のものより背中の白点が増えてきている。 こちらはもう少し進んで首が黒くなり始めている。
写真A 写真B
上の右側の個体とよく似ているが撮影した場所が違う こちらは換羽の兆候の見られないまだ冬羽。
ので別個体。
写真C 写真D
ここまで見た範囲での換羽は体の後の方の脇に白い斑点が出始め、次いで背中に白い斑点が出来て増えてくる。 更に進む
と首が黒くなってくる。
*4月13日
4月3日の観察から10日経ってかなり進んでいるのではないかと期待して行ってみた。
この個体は背中の白斑がはっきりと大きくなってきている。 この個体は背中の白斑がほぼ夏羽で首の黒い部分もかな
首に黒くて太いラインがくっきりと見えていて一見シロエリオ り大きくなって換羽が進んでいる。 これから首がさらに黒く
オハムのようだが背中の白斑はオオハムのもの。 なり、頭が青灰色になると夏羽完成となる。
体の後の方の白い部分もシロエリオオハムには見られない。
写真E 写真F
シロエリオオハムの識別点の一つは首の黒いラインであるが、いろいろと調べてみるとシロエリオオハムほどでは無いが、オオ
ハムにも黒いラインの有るものがいるようで体の後脇に白い部分が有るものはオオハム。 夏羽になると背中の白斑の並び
方でも識別できる。 オオハムの背中の白斑は不規則に並び、シロエリオオハムの白斑は整然と並んでいる。
この2羽を見るととてもよく似ているので同じ個体にも見えるが、左は首が白く(露出過剰で飛んでいるかもしれないが) 右の個
体は首に黒い斑点が多いので多分別個体と思われる。
写真G 写真H
*4月18日
オオハムの換羽はスピードが速いという意識が生まれた。 前回から5日経っているので期待していったが土曜日という日取り
の設定が悪く、水際は大勢の釣り人などがいて警戒したオオハムは写真距離には近付いてこなかった。
遠くまで出かけたのに言わば空振りの一日。 この時期になるとここでは他に見る鳥がいないのが辛いところである。
*4月23日
週末は懲りたので平日に満を持して出かけた。 釣り人が少しいたが近くでナブラが立ったのでまずまずの写真を撮ることが出
来た。 近くで見られるのは少数だが、沖合いには各所併せて100羽くらいのオオハムが浮いていた。
この2枚は同一個体かと思われる。 背中の白斑はほぼ完成し、首の黒い部分がはっきりしてかなり換羽が進んでいる。
写真I 写真J
頭は青灰色になってヌメリが有り、首の黒色部や頭の付け根の白い窓のようなバンドは完成しているが、図鑑を見ると頭の青
灰色部がもっと青いので夏羽完成まであと一歩と思う。 茶色みが若干残っているように思うが光線の加減によっても微妙。
この個体がこの冬見たオオハムでもっとも換羽が進んだ個体となった。 更に進んだ夏羽を見たかったが、次回の4月30日に
行った時は旅立ったあとだったのか姿を見せてくれなかった。
写真K
左は上と同じ個体。 やっぱり頭に茶色が残っているが、 羽ばたいているこちらは喉が黒いが夏羽完成にはもう少し
頭がぬめっているように見えると思うがどうだろう。 日にちがかかりそう。
写真L 写真M
*4月30日
GW中のこの時期になると水際には平日でも突堤のあちこちや岸壁に釣りの人が溢れているので写真距離には近付いてくれなか
った。 向こうが来なければこちらから・・・・と行ける範囲で寄ってみたが思ったより距離が有って良い写真にならなかった。
オオハムは順次繁殖地に旅立っているらしく、この日にカウントした個体数は各所併せて17羽で1週間前の100羽前後と比べると
激減していた。
この2羽は顎が茶色になっている程度で換羽が遅い。 顎が茶色で首も茶色になって左より進んでいる。
写真N 写真O
この個体は顎から首にかけて更に黒くなってきている。 まったく冬羽そのもの。 若いのかもしれない。
写真P 写真Q
頭から首の後にかけて産毛のような心細い毛が生えてお このオオハムはかなり換羽が進んで顎の白い部分や首
り、首の辺りも何となく奇妙である。 こんな個体は他にも の前部もかなり黒くなってきている。
1羽みた。 写真R 写真S
上の右と同じ個体。 胸の縦の模様や首の横の縦の白線、顎の付け根の白い模様などほぼ完成に近付いており、
頭から首の後ろ側が灰白色になってぬめっているように見えてきたら完成となる。
写真21
上とは別の場所にいた群。 換羽のいろんなステージのものが混じっている。
写真22
以上、写真を並べたが鳥たちとの距離が遠いためかなり無理してトリミングしてある。
*換羽していく順序の推定
1、体の後の方に白い斑点が見え始める。 頭は茶色。 写真@
2、背中に白い斑点が出てくる。 写真A
3、喉または首の上部がもやもやと黒くなって胸に縦線が入る。 写真BCE
4、首の前が黒くなって横には縦線が見えてくる。 写真GJ
5、首の上部に白い部分が見え始めて首の前が更に黒くなる 写真HI
6、首の前黒色部と喉の白い部分が窓のようにくっきりする。 写真21
胸の縦線がはっきりする。 頭はまだ茶色。
7、頭が茶色から青灰色になってぬめったような感じになると夏羽完成。
今回の観察では換羽は3月下旬に入った頃から始まり、およそ以上のような順序で進んでゆくのを観察した。
換羽の進み具合には個体によって大きな差があり、4月の末になってもまだ冬羽のものがいた。 遅いものはまだ若い個
体と思うがそれを裏付けるような資料は見付からなかった。
繁殖地への旅立ちは換羽の進み具合とは関係ないと思う。 4月23日には各所併せて100羽くらい観察したが4月30日
には17羽と急激に数が減った。 その後GWに入って水際が賑やかになったので4月30日で観察をやめたが、5月6日の
GW最後の日に現地を訪れた友人からはまだ数羽残っていたと連絡があった。
*その他の海鳥たち
アビ
3月16日に8羽の群を見たのが唯一の機会で他の6回では一度も見られなかった。 この期間中に観察した友人もいるが、
一般的には観察機会の少ない海鳥で、8羽の群を見られたのは幸運だった。
シロエリオオハム
7回の遠征中、遥か沖合いで群れているのを何回か見たが写真距離には一度も近寄ってこなかった。 沖合いにいる場合
はフィールドスコープの距離だが、首のバンドがくっきり見えていることと体の後の方に白い部分がまったく見られないことから
識別は容易だった。
アカエリカイツブリ
個体数は多かった。 カンムリカイツブリと並んでよく砂浜の岸近くにいたが、カメラを抱えてそうっと近付いて行くとしづつ遠
ざかって警戒心は強かった。 岸近くでナブラが立つと餌に惹かれて寄ってくるのでチャンスに恵まれれば近くで撮れる。
夏羽への換羽は早く、4月初旬には夏羽がいるなどいろんなステージのものが見られた。
繁殖地への移動は早い。 4月3日には海岸近くにたくさんいたが10日後の4月13日には沖合い遠く離れており、18日には
1羽も見られなかった。 次の2枚は4月3日に撮影したアカエリカイツブリ。
こちらはほぼ夏羽 夏羽に換羽中
ミミカイツブリ
個体数が少なく遠くはなれていて岸近くには寄ってこなかった。 繁殖地への移動も早くて4月3日には少数見かけたが
4月13日には1羽も見られなかった。 このミミカイツブリは4月3日の撮影でかなり夏羽になっている。
近寄ってこないので撮れた写真はこの程度。 これ以上のトリミングには耐えられない。
オオミズナギドリ
春先から秋まで見られるオオミズナギドリを見たのは4月13日1回だけで少数が群れていた。
海鳥の撮影は天候や風の状況、また海辺にどれくらいの人がいるかに左右される。 運が良いと水際に小魚が集まって
それを餌とする水鳥が思いもかけない近くで撮れることもある。
今回は完全な夏羽を観察できたかどうか確証が無いので来春もう一度挑戦したい。 また、渡ってくる11月頃にはどんな
羽で来るかも見ておきたい。