ミズカキチドリ
チドリ目 チドリ科 英名:Semipalmated Plover
全 長 :17〜19cm 雌雄同色
観察可能時期:
2,006年秋 日本初認
今後見られるとすれば冬
生 息 場 所:本来の生息地アメリカでは冬季は大西洋・太平洋などの沿岸部で越冬する。
愛西市では蓮田に5ヶ月滞在して越冬した。
類 似 種 :ハジロコチドリ
特 徴 :体型がずんぐりムックリの小さなチドリは、足の内側の指の間に小さな水掻きを
持つ。
カナダのハドソン湾以北で繁殖し、冬季は北米大陸の東岸・西岸の北緯40度ラインから南・・中
米方面にかけての沿岸部で越冬する。
生息地とは生態的に隔絶された日本でも過去に谷津干潟などで目撃されたという話は有るもの
の確認はとれておらず、鳥学会の種名リストにも掲載されていない幻のチドリだった。
2,006年11月17日に愛知県の愛西市でコチドリに混じっていた小さなチドリがハジロコチドリ
として写真撮影された。 発見者の橋本さんはこの写真を詳細に分析して日本初認の「ミズカキ
チドリ」と認定、論文を執筆して「山階鳥類学雑誌 第39巻1号」に発表された。
発見された当日、私も橋本さんと一緒におもに越冬中のエリマキシギを観察していた。
夕方、「ハジロコチドリ」がいると連絡を受けたので現地に行き、薄暗くなってきた中でどれがどれや
らよくわからないまま撮った写真の中に後にミズカキチドリと認定された小さなチドリが写っていた。
日本で2番目の観察者・撮影者の栄誉をいただいたわけだが、写っていて本当に良かった。
2,006年11月17日 発見日に愛西市で撮影
持ち帰った写真を詳細に分析された橋本さんは、日本初認のミズカキチドリの可能性があるので
水掻きを撮ってほしいと私に連絡されると共に自らも確認の為に何度も訪れて写真を撮影された。
橋本さんはお若いながらシギチ観察者・研究者としてステータスを持っておられる知られた存在だ。
ニュースは「確認してほしい・・」という意図で橋本さんからシギチ観察者に流され、噂は少しづつ
広まっていった。
最初の頃は関東方面からの観察者など遠方からの来訪者が多く、地元も含めて延べ100人以上
のカメラマンが1枚の田んぼを取り囲んだのは12月上旬の週末だったと思う。
2.006年12月2日 愛西市で撮影
このチドリは一緒にいたコチドリとは明らかに異なりハジロコチドリに酷似していたが、橋本さんは
写真を詳細にチェックして日本では未確認となっているミズカキチドリと推定した。
論文には詳細な識別点が記されているが、ここでは主なポイントとして3つの点をあげておく。
1、胸の白い部分が口角の上(上の嘴の付け根)まで達している。
2、夏羽・冬羽を問わず細いが明瞭なアイリングがある。
3、ハジロコチドリでは外側と中指の間に水かきがあるが、ミズカキチドリは内側と中指との間にも
小さな水かきがある。
この、水かきはとても小さなもので足指を大きく開いて着地する時にやっと確認できる程度である。
写真は文字が小さくて読みにくいが識別点を記入しておいた。 内側の水かきがはっきりと写って
おり、黄色いアイリングもわかりにくいが存在している。
2,006年12月24日 愛西市で撮影
餌は豊富に有ったらしく活発に採餌していた。 たまたま長い尻尾のある丸い何かの幼虫と思わ
れる虫を咥えているところが写っていた。 体にピントが行ってしまって餌に合ってないのが残念。
2,007年12月24日 愛西市で撮影
発見から2ヵ月半経った2月初旬の撮影。 この頃の興味は夏羽への換羽がいつ始まるかと、いつまで
いてくれるかだった。 この日は遠くにいたが光線が良くてトリミングに耐えられる写真が撮れた。
2,007年2月3日 愛西市で撮影
愛西市までは20分と少々なので5ヶ月間に30回ほども通って存在を確かめた。 餌をとるのに適した
田んぼはあちこちに有る。 一つの田んぼに長く留まることも有れば自由気ままに移動することもあるの
でしばしば行方が判らなくなって探し回った。
換羽の状態をチェックするため見掛けるたびに写真を撮ろうとしたが逆光であったり、遠かったりで撮れな
かった日は多い。
一時のブームは去ったものの行くたびに探しているバーダーの姿を見掛けた。 特に遠方ナンバーの
車を見掛けた場合「手ぶらで帰るのはお気の毒」なので居場所がわかっている場合は案内した。
3月初旬に撮った写真。 そろそろ始まるかと思った換羽だが、この時はまだ変化が見えない。
2,007年3月1日 愛西市で撮影
4月初旬のミズカキチドリ。 逆光と曇り空で色が出ておらず苦しい写真になったが、目の下側や胸
の一部が黒くなって換羽が始まっている。
2,007年4月6日 愛西市で撮影
その後、私は探し出せなくなってしまい、再会した4月25日には夏羽に換羽中の美しい姿で現われた。
ハジロコチドリと比べると眉班が小さく嘴の上に黒い部分が見られない。
2,007年4月25日 愛西市で撮影
上の写真よりもう少し前向きの写真。 細いけどはっきりしたアイリングが確認できる。
2,007年4月25日 愛西市で撮影
5月の初旬に確認した人がいるが、私が見たのは4月25日が最後になってしまった。 5月10日頃まで
には繁殖地のアメリカ大陸北部に帰っていったと見られる。
夏羽まで見られたのはラッキーだったが「The Shorebird Guide」に掲載された夏羽の写真を見ると嘴の
半分くらいまで赤い部分が延びているので完全な夏羽までにはもう暫くかかりそうだ。
この環境が気に入って翌年以降も来てくれるのを願ったが次の冬(2,007年〜2,008年に掛けての冬)
は越冬するシギの姿はほとんど見られない寂しい蓮田となった。
2,018年の秋に名古屋市港区の水田地帯に5羽のハジロコチドリが飛来し、その中の1羽がミズカキチドリでは
ないかと注目を浴びた。 確かに他の4羽と比べると背中から胸にかけての白いラインが口角の上まで達している
ように見えることから外見はミズカキチドリに激似していた。
しかし私は、
@ミズカキチドリにしては白い眉線が太すぎること。
Aこれまで観察されたミズカキチドリは単独行動で、ハジロコチドリに混じっていたという記録がないこと。
などから否定的に見ていた。 足の指が見えてミズカキが有れば自分の識別が間違っていることになるが泥田の中
でなかなか指の間が見えなかった。
写真が撮れたのは12月26日だった。 ミズカキチドリの内側の水掻きは小さいと言えどもかなり明白であるが、この
個体は水掻きが無くハジロコチドリであることが確認できた。
よく見ると胸の白い部分は微妙に口角の上まで届いておらず、アイリングはハジロコチドリにも見られる程度だった。
外見を見た時にまず決め手になるのは眉線の太さで、ミズカキチドリはこれほど鮮明ではない。
記:2,008年8月19日
2,019年1月15日 改定
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