たった1羽で子育てしたアオバズク
2,011年7月
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観察のしやすさからここ数年大変な人気を集めている三重県東員町の神社のアオバズクは今年(2011年)の春も
2羽のカップルで現れて子育てを始めた。
6月24日に巣穴の外で見守る♂(一般的にアオバズクは♀が抱卵して♂は外で見張ると言われている)の姿を確認。
ところが25日になって姿が見えなくなり、神社の境内に羽が落ちているとの連絡を頂いた。
28日に行ってみたらやはり姿は見えず、境内の一角に羽が散らばっていたので回収した。 回収した羽はアオバズ
クのもので外で見張っていた♂のものと推定。 ♀の姿は見えなくて修羅場のあったあとも巣穴の中で卵を抱いている
のか、逃げ去ってしまったのかはわからなかった。
7月の初旬に親鳥が巣穴の近くにとまっているのが確認された。 巣穴の近くにいることで雛がいるのは確実と見られ
たが、はたして♀1羽で子育てが出来るのだろうか・・・。 先行きが興味深かった。
最終的に無事に巣穴を出たのは1羽だけだったが、1羽でも巣立ったことは画期的に思われたので現地住人の皆さん
や鳥仲間の人たちから聞いた話。 それに私の観察を併せて記録として残すことにした。
日付については記憶が曖昧になってきている方も見えるので若干の違いがあるかもしれない。
1、夏鳥として繁殖に訪れるアオバズクの到着は4月末から5月初旬の頃。
5月14日、今年も2羽飛来しているのを確認してきた。 石垣を積んだ土盛りの藪の中に隠れていた。
2、5月26日
巣穴の外に1羽のアオバズクがとまっているのを確認。 もう1羽は巣の中に居て卵を産んだか、産む準備をし
ているのだろう。
この巣穴では毎年3〜4羽の雛が巣立つ。 卵は一度に産むのではなく、1〜2日に1個のわりで産み、揃ってか
ら暖めにかかるらしいが、この日に暖め始めると7月10日過ぎの雛の誕生にはちょっと早いような気がする。
♂と見られるアオバズク
3、6月24日
前回からほぼ1ヶ月ぶりに無事かどうか確認にいった。 1羽が巣の外にいて見張っていた。
上と同じ個体とみられる。
4、6月25日
「巣の外にいるはずのアオバズクが見当たらず、神社の境内に羽が散らばっている」との連絡をいただいた。
昨日は確認しているので襲われたのは昨夜から今日にかけてということになる。
5、6月28日 7月2日
やっと暇が出来たので羽を回収してきた。 羽は1箇所に固まってオオタカの食事跡のような感じだった。
回収してきた羽は「野鳥の羽 ハンドブック」で確認してみると間違いなくアオバズクの羽だったが、風切り羽
が少ないのと尾羽がないので7月2日に改めて境内を探して尾羽などを回収した。 かなり散らばっていた。
アオバズクを襲ったのは何か・・・カラスが鳴くと反応することからカラスとする説。 猫などの肉食哺乳類とする説。
猛禽説などいろいろと考えられるが決め手なし。
カラスに親鳥がむざむざ襲われて餌食になるとは考えにくいので猫に襲われたと思ったが、羽に食いちぎられ
た跡が無いことから哺乳類では無いとする意見も頂いた。
回収してきた羽。 左側写真は風切り羽。 左の3本は羽柄 左の2本は左の写真とは逆側の風切り羽。
次の2枚は長く全体も長いことから初列。 右の6本は次列と思う。 尾羽。 尾羽は次列より羽柄が更に短い。
初列の先端は尖り気味で次列は丸みを帯び、羽柄が短め。
推進力を求められる初列風切り羽は長い羽柄でしっかり固定されている。
収集できた主な羽はこれだけで、全体の半分にも満たない。
残りの羽は風で散逸したか、別の場所に運ばれた。
アオバズクの風切り羽。 左側は1羽で子育てした♀のもので、右側は巣穴から出てきたばかりの幼鳥。 初列・次列がわかりやす
いので掲載した。 初列はP11が極端に短く全部で11枚。 次列は10枚なので一番上も次列かもしれない。 あるいは3列かも。
6、7月3日
後から聞いた地元の人の話では、2日ないしは3日の午前中に産毛に包まれた1羽の雛が巣から落ちて死んでいたので埋葬した
そうだ。
7月2日に羽を回収してきたが私は何も気付かなかった。 その日は神社のお祭りがあったそうだが、2日には祭りの気配はなかっ
たので3日でいいと思う。
7、7月10日
7月初旬に♀らしいアオバズクが巣穴の近くにいると連絡をいただいた。 10日に見に行ったら巣穴の近くの巣の見える場所にいた。
巣から離れないところをみると中には雛がいるとみていい。修羅場があった時も恐怖に耐えながらじっと卵を温め、雛から離れても
よい大きさまで育ったので巣穴から出てきたのだ。
この日、別の神社でも雌雄2羽のアオバズク成鳥が2羽並んで巣穴の近くにいるのを確認してきた。
この時点では雛の1羽が落下絶命していたことは知らなかったので中に何羽の雛がいるのかわからなかった。 通常2羽で行う雛へ
の餌運びを1羽で行うので全部が育つとは思えなかった。
8、7月20日
後に現地の人などから聞いた話によると、7月20日の午後に巣から落下した1羽の雛が石の上にいたので宮司さんなどと
相談して石垣の土盛りの上に上げてやった。 当日は夕方まで姿が見られたが、翌朝はいなかったそうだ。
9、7月21日
夕方、巣の中にいる雛を確認した。 私は、この時点では雛が何羽いてどうなっているのかはわかっていない。
10、7月22日
この日、1羽の雛が巣穴から出ているのが確認されている。
11、7月23日
朝方現地に行って1羽の親鳥と1羽の雛が並んでいるのを確認した。
12、7月24日
巣を出てから3日目、これから行動半径が広くなるので見られなくなるのもじき。 健気な親子の写真を撮りにいった。 少しだ
けのつもりだったが雛のあまりの可愛さについたくさん撮ってしまった。
7月25日
親子の去就が気になるので確認にいった。 親はすぐに見付かったが雛は現地の人などと共に2時間近く探したが見付けられな
かった。 親鳥は北の方向を向いていたが、視線は常に北西方向に向かっていたのでこちらに雛がいたと思われる。
親が南を向いた。 しかし、視線はやはり北西方向が多かった。
雌雄が協同で子育てする鳥たちは、1羽が欠けると給餌が不十分で全ての雛が巣立つのは難しい。 そんな状態でこの♀と見ら
れるアオバズクは立派に1羽の雛を育て上げた。 ひょっとするともう1羽も巣立ったかもしれない。
親子を追い掛けるのはこの日を最後とした。 今回は貴重な観察が出来たので記録としてまとめてみた。
なお、2,004年に津市の城址公園でも同じように♂が落鳥したことがあり、この時は3羽巣立った翌日に一際小さな4羽目が巣
立ち、通常であれば翌日には行方をくらますところ4日ほど滞在したそうだ。
それと比べると今回巣立ったのが1羽だけだったのは台風の影響など条件が悪かったせいだろう。
2011年7月