カリガネ     カモ目  カモ科         英名:Lesser Whiteーfronted Goose
                                  学名:Anser erythropus
    
準絶滅危惧種(NT)
    全    長  :60cm 
    観察可能時期:冬鳥として10月〜3月にかけて越冬するが渡来数は少なく越冬地以外では
  
    生 息 場 所:湖沼近辺の水田・農耕地にマガンの群と一緒にいて稲の2番穂が好物。。 
    類 似 種   :マガン
    特   徴   :マガンに似るが小柄で嘴が短く、目に黄色のアイリングが鮮やか。 また顔面の白色部
              の幅が狭く頭の上まで伸びるなどで識別は容易である。 
                
   ユーラシア大陸の北極圏で繁殖し、大陸東部のものは中国の長江流域で越冬する。 2,003年3月1日
  テレビ朝日系で「カリガネが舞う空」が放映された。  作家・立松和平が幻の鳥「カリガネ」を求めて中国・
  湖南省の洞庭湖まで行くという内容。  洞庭湖周辺では1万羽前後のカリガネが越冬するそうだ。
 
   
   カリガネの記録をネットで調べていたら2,007年の11月に古利根川に若鳥ばかりが6羽現われた時の
  関東の記録が続々と出てきた。  寡聞にしてこの騒動は知らなかったが、関東はさぞかし興奮したことだろう。
  この時は11月下旬に行方不明になって以後の記録が出てこなくなってしまった。  

   カリガネは愛らしい風貌と希少性から一度は見てみたい野鳥の筆頭だった。 
  2,007年の12月、仙台方面に出かける用事が有ったので蕪栗沼と伊豆沼周辺で探してみた・・・探そうと
 思った。 が、池周辺の農耕地にたむろしている数千羽のマガンの群を見てこの中からいるかいない
  かわからないカリガネを探し出すのは不可能だとすぐに諦めた。
   しかも、ここのマガンたちは警戒心が強くて車をそろりとあぜ道に入れるだけで警戒心露に飛び立ってしまう。  
   まさに幻のカリガネだった。



   その愛すべく幻のカリガネが7羽も翼を揃えて2羽のマガン若鳥とともに鈴鹿市の池に舞い降りた。
  2,008年1月13日の全国一斉ガン・カモ調査で存在が確認されていたが、この時はマガンとして報告されて
 おり、カリガネとして話題になり始めたのは2月に入ってからだった。

   初めて見に行ったのは2月11日だった。  農業用の溜池の100m×200mくらいの矩形の小さな池の畔の
  僅かな陸地に7羽のカリガネと2羽のマガンの9羽が揃って羽を休めていた。
                                 
2,008年2月11日  鈴鹿市    
       


    ここに写っているのは7羽のカリガネである。  一番水際で眠りこけているのは胸に黒い部分のある成鳥。
   この群は2羽の成鳥に率いられたファミリーと見られる。
                             
 2,008年2月11日  鈴鹿市   
        

 
                7羽のカリガネと2羽のマガンが揃って泳ぐ姿は美しかった。
                             
2,008年2月11日  鈴鹿市   
       



    成鳥と若鳥・幼鳥の識別は顔の白い部分が目の上まで伸び、体の下面に黒い斑模様の有るものが成鳥である。  
   ちょっと判り難いがこの写真に写っている7羽のうち真ん中の少し大きめの個体はマガン。  
   先頭から5番目で下の方に写っている腹部が黒っぽいのがカリガネの成鳥である。
                             
2,008年3月15日 鈴鹿市   
       


   不定期に越冬する場所では1〜2羽のことが多いが、宮城県の蕪栗沼や伊豆沼周辺では数羽単位で越冬し、家族
  単位で移動する傾向にあるという記述が有った。
  今回のように7羽も飛来すると頷けるわけだが、7羽が家族とすると家族構成が気になってくる。

   2,008年の7月1日に井の頭自然文化園のカリガネの雛が3羽羽化したと発表された。  1家族の子供の数は3羽
  前後になる。  70gくらいで産まれた雛は3週間で800g程度まで成長したそうだ。

   自然界は飼育されている個体と違って産まれた雛が全て育つほど安全ではないので成鳥2羽に5羽の子供たちは多
  すぎる。 
   1羽づつ仔細に見て行くと顔面の白い部分が少ししかないいかにも初々しい幼鳥や、頭の先まで伸びている若鳥、また
  下腹部に 黒い点が入り始めているものなど年齢の構成が様々に見えた。

   この個体は顔面の白色部が小さいので群の中でも一番若い幼鳥と思われる。  これより白色部の小さい個体はいな
  かったので孵化した後はほとんど無い白色部が一冬を経て次第に大きくなってきたものと推定。
                     
                 2,008年3月8日  鈴鹿市    
      
 


   
次の2羽は向こう側が成鳥。 手前は顔面の白色部が目の前で止まっており、胸に黒色部が無いので上の個体より
  年齢が上の若鳥と見られる。  カモ類の産卵から巣立ちまでの日数は2ヶ月弱を要する。  遠距離の渡りをするカリ
  ガネガが北極圏の短い
  夏の間に2回の子育てをするのかどうか・・・資料は見付からなかったが、渡りの準備期間も有るので1回と見るのが妥当。 
  とすると推測だがファミリーは親鳥と年齢の違う子供たちで構成される。 
                                 
2,008年3月8日  鈴鹿市   
        


   産まれた雛が成鳥になるまで何年かかるか・・こんな記録が欲しかったがネットで調べてもなかなか出てこなかった。
  飼育している施設にはこういう記録の開示をお願いしたい。

   撮ってきた写真を見ると圧倒的に成鳥の写真が多かった。  群は田んぼで餌をとるときも池の畦に上がって休ん
  でいるときも常に1羽が見張りに付いている。  田んぼで餌をとっている時は親鳥がすっくと立って見張りをしている
  ためどうしても姿かたちの良いほうに目が行ってしまうわけだ。
                                
 2,008年3月8日  鈴鹿市    
       

         群を引き連れてきた2羽の成鳥。 体の色が若干違うのは雌雄の違いか光線の加減か・・。
                                  
 2,008年3月8日  鈴鹿市
       

   
        間違えてカリガネファミリーに付いてきてしまった2羽のマガン若鳥のうちの1羽。 あるいはこちらがリーダーか。
                                 
2,008年3月8日  鈴鹿市   
        



    昼間は池で寛ぎ、朝晩近くの田んぼで2番穂を食べていた。  旅立ちが近付くに連れて田んぼにいる時間が長く
   なり、観察者がいても静かにしているとどんどん近寄ってきた。  
                                
2,008年3月8日  鈴鹿市   
            


   3ヶ月近くを鈴鹿市の池で過ごしたカリガネファミリーは3月23日の観察を最後に遠く北極圏を目指して飛び立って
  いった。 この年は年末年始の荒天で木曾岬干拓地にたくさんのケアシノスリの若鳥がやってきた。
  カリガネファミリーもおおそらく同じような事情で南下してきたのだろう。  私たちにはまたとない貴重で嬉しい出会い
  だった。


   
島根県の斐伊川河口一帯の田園地帯でマガンの群れに混じっていたカリガネ。  数羽いると聞いていたが見掛け
  たのは1羽だけだった。  鈴鹿市にはファミリーで行動していたが、この個体は単独行だ。 
 
                                   2,009年1月21日  斐川町  
  
       



                                  記:2,008年8月10日
                                     :2,009年1月31日


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